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映画『ラッシュ/プライドと友情』 感想

7日から公開中の映画『ラッシュ/プライドと友情』。

去年、14年2月公開のアナウンスが出てから早く見に行きたくてずっとウズウズしてた映画。

ようやく見に行けました。

感想としては、「こんなに面白いとは思わなかった」。

正直、見たくてたまらなかったけど、どうだろうなあ~。どうせ人間ドラマと恋愛に比重が置かれて興ざめするだろうな~

と思ってました。

監督さんは『アポロ13』の人なんですね。さすがというか、正直このマニアックな題材をここまでまとめあげてくれるとは。F1ファンとしては感謝の極みです。

てなわけで細かい雑感をば。

僕は映画に詳しいわけではないので、F1ファン的視点から細かいところに突っ込んでいきますがご容赦をば。

・配役、演技

まず、最初にこの点が素晴らしいと思った。

この映画の主役である、ニキ・ラウダダニエル・ブリュール)とジェームス・ハントクリス・ヘムズワース)。この二人がとにかくハマりすぎ。

ハント役の人は声と雰囲気が素晴らしかった。ハント本人の酒焼けした低い鼻声やちょっと皮肉の効いた口調、所作にそっくりで、ハントのプライベートまでは詳しくない僕でも「あ、こんな感じ(笑)」と思わせてくれるさすがな演技でした。(二枚目半な印象のある本人よりシリアスなイメージが向いていてちょっと男前すぎましたがw)

後で調べたらマイティソーやアベンジャーズなんかに出演している有名な俳優さんみたいですね。

ラウダ役の人はドイツで育った人で、数ヶ国語が堪能だそうで。オーストリア人のラウダがドイツ訛りの英語をしゃべる様が想像できる名演技でした。

あと、失礼ながら「ネズミ」とあだ名されるラウダの出っ歯でアゴが小さく目がぎょろっとした風貌のイメージにそっくりでした。(笑)

ほかで感動したのがレガツォーニおじさんもそっくりのヒゲ親父だった事(笑)あと、ドライバーズミーティングでジョディシェクターやパトリックデパイエにそっくりな人がいて、映画の中では名前すらほとんど出てこないけど「ああ、たぶんあの人だ(笑)」と思ってクスクスしてました。とにかく配役がナイスすぎです。

・ストーリー

ドキュメント映画ではないので、細かい部分は端折られていたり事実と異なる部分がありますが、一つの映画としてみる場合冗長だったり、スペクタクル性を損なう部分だったりが変更されているので、正直違和感はあまり感じませんでした。

具体的にはラウダのフェラーリ入り時のエピソードがBRMに加入した際のエピソードに差し替えられていたり(そのほかラウダのマーチ時代のエピソードがそもそも無かったことになり、ロニーピーターソンの影が非常に薄かったのは残念)、ハントが74年(?)アメリカGPの予選中に起きた事故の現場を見に行くシーンが実際の事故と食い違っていたり、ラウダが事故から復帰した76年イタリアGP後から最終戦日本GPまでの顛末がカットされていたり。(それによってイタリアGPでハントがチャンピオンに王手をかけたことに。実際にはその後2連勝でラウダに追いつく)

日本GPまでのカットは映画の展開上仕方ない部分もあり問題ないと思います。というかこの年のハントとラウダ以外が勝ったレースは一部を除いてほぼカットされていますし、展開を分かりやすくするために前後の事実関係がぼかされていますから。(それによって逆に、その間復帰のためのリハビリを行っていたラウダの視点がハッキリとし、効果的な演出となっているように思う)

フェラーリ入り時のエピソードがBRM加入時に差し替えられているのは、ラウダという人物のキャリアをより観客に分かりやすくするための措置かなと。自分で銀行から融資を取りつけ、車の知識に精通しメカニックと共にマシンを作りあげる、そのためにどういうアプローチを取るか、というラウダの仕事のスタイルを見せる場面を効果的に演出するため、エピソードを前後させたのでしょう。エンツォとの関係性はフェラーリ入り後のテスト風景でいかつい風貌の老人が新聞を読みながらテストコースを走るフェラーリをチラリと見やるシーンで補完されています。こういうところがF1に疎い一般人にも、コアなファンにもストーリーの意図を視覚的に伝えるという面で監督はじめスタッフの技量を感じさせますね。

ただ、ハントが事故現場を見に行くくだりは、ストーリーとしては良くできていたのですが、少し疑問が残ります。ハントが現場を見に行くと、ガードレールを突き破ったマシンの残骸と、その中に乗り込んだドライバーの首から上が無くなっている凄惨な現場が。動揺するハントに、ラウダが「彼のミスだ。あのコーナーを曲がるにはスピードを出しすぎていた」と淡々と告げるというシーンで、両者のレースに対する考え方や姿勢を対比的に表したかったのだと思います。ぶっちゃけ、よく知らない観客から見ればそれでいいでしょう。

このシーンは恐らく73年アメリカGPの予選中のフランソワ・セベールの事故と、74年のアメリカGP決勝中のヘルムート・コイニクの事故の両方をミックスしていると思われます。

首を切断されるという凄惨な死に方はコイニクの事故のものですが(セベールの時はもっと悲惨な状況)、彼の事故は決勝中、すなわち他のドライバーがレースをしている途中に起こっているものなので、このレースでリタイアせず3位に入っているハントが見に行くことは不可能。

また、ラウダが「彼のミス」と発言しているが、史実に照らし合わせてみる限り、ドライバーのミスが事故の原因である可能性が高いのはセベールの事故の方(コイニクの事故はタイヤトラブルと言われています)。

セベール、コイニク両者とも惨い死に方をしているので、彼らの親族や近しい者に配慮したのでしょうか。現に、事故に遭ったドライバーは「氏名は不明」と言われており、誰なのか言及されていません。

ただ、映画の中で「ティレルは事故を受けてレースから撤退」と言っています。ティレルは事故当時のセベールの所属チーム。ティレルの名前が出れば、知っている人ならセベールを連想するでしょう。

僕が言いたいのは、この部分に関する事実関係のぼかし方がなーんか中途半端だなあと。遺族感情に配慮するならばティレルではなく、「事故死したドライバーの所属チームはレースから撤退」とでもしとけばよかったのでは?

まあそれも、ストーリーとして見れば破たんしてる訳ではないので大した事じゃないと思いますが。

あと、ラウダの事故のある76年ドイツGPの時、横転してコースサイドに突っ込み足の骨が見えるくらいの大怪我をしていたのは誰がモデルなんでしょうかね?事故で大けが(生存)、観客がいるコースサイドに突っ込むと聞くと75年スペインGPのシュトメレンを思い出しますが、彼はもやしメガネだったしなぁ…。

ま、恐らくこの後ラウダの身に起こる悲劇を暗示する演出の一環だと予想しています。

・マシン等ディテール

これが最も感動した部分。まあF1ヲタなのでそこに一番こだわってるからですが。

当時のマシンを用意しただけでもすごいんですが、当時の内部メカの構造というか、70年代独特の「へにゃへにゃ感」が伝わって来てとても感動したわけです。

当時のマシンって、400馬力も500馬力もある化け物エンジンを、アルミと鉄パイプとで作った少しぶつかったらクチャクチャにへしゃげそうな脆いマシンに積んで、これまた現代から考えれば貧弱なサスペンションで整備の未熟なボコボコ路面を跳ねながら走っていくわけです。当時の映像とかを見ても、コーナーを曲がっている最中のスローモーション映像でも車のあちこちが「ふにゃん、へにゃん」とたわんで見るからに危なっかしい挙動をしていて「こんなモンよくそんなスピードで運転するわ」と思うレベルです。正直言ってクレイジー、気が狂ってます。

で、そういう時代のパワーだけはいっちょ前、いつクラッシュするかハラハラドキドキの「脆さ」と、だからこそ楽しめる「ロマン」みたいなものを映像の中でしっかりと表現されていたのが印象的でした。

あと、ラウダがBRMでマシンの細部に注文をつけるシーンも印象的でした。メカニックが突貫工事で改修し、マシンを走らせてみたら1秒以上速くなっていた…技術が進歩した現代では、ドライバーがこのように口出しして劇的に速くなるなんて考えられないエピソードですね(多少はそういった要素もありますが、現代は技術の進歩が大きいのでドライバーがメカニックまがいの事をやるのは不可能に近い)。逆に、ラウダのすごさを際立たせるにはこうした時代背景も重要だったのだろうなと思わされます。

・演出

全体的にスペクタクル感と人間の描写をうまく両立していたと思いますが、特に気に入っているのはラウダの事故当初から復帰までのエピソード。

ラウダは76年のドイツGPのレース中にコースアウトしてクラッシュ、衝撃でヘルメットが飛ぶ&車が炎上して頭部にやけどを負い、また熱した有毒な煙を吸い込んだことで肺にダメージを負い、血液も入れ替えなければならないほどで、一時は神父を呼んで臨終のお祈りを捧げられるほど命が危ぶまれる状態になりました。この時のことがラウダ視点から描かれていて、燃え盛る車の周りに集まる救助の人々、薄れていく意識、妻や神父が寄り添う姿、肺の膿を取るため口から直接でかい管を入れて吸引、復帰を目指してやけどの残る痛々しい頭部にヘルメットをかぶろうとしてうめき声を上げる、などの生々しいエピソードが非常に効果的に描かれていて、そんな地獄のような日々を送る中、病室のテレビに映るライバル・ハントの快進撃を目に焼きつけながら復帰への闘志を滾らせる姿など、あのシーンの主役はラウダなんだな、ということが伝わってくる見事な演出だったと思います。

正直史実で知っている限りでは「結構短期間で復帰しているし、実際命の危険が去ったらレースできるレベルだったんだろうな」ぐらいに思って舐めてました。今でこそ淡々としているラウダ氏ですが、強い意志と不屈の闘志があったからこそあの短期間で復帰できたんでしょうね。

・総評

ここまで完成度の高い映画とは思いませんでした。人間ドラマとF1ヒストリー、両方の要素をバランスよくまとめあげて、とてもハイクオリティな俳優陣の演技とスタッフの演出によって非常に高いレベルにまとめあげられているなと思いました。「あなたの生涯の一本を塗り替える」と宣伝で謳ってますが、見る前は「そんな大げさな(笑)」となめてかかってました。しかし今では、少なくとも自分の中では「生涯の一本」ですね。まあ、好きなジャンルでひいき目が入ってますが、それでも演出やクオリティの面でも今まで見た中で一番の出来でした。最近の映画の宣伝見てると「アカデミー賞最有力」「衝撃のラスト」的な宣伝が多くて辟易していたのですが、そんな映画に対する興味が薄れていくような風潮の中でこのような映画を見る事が出来たというのは嬉しい驚きです。

うーん、最初はそのつもりなかったけど、吹き替え版も見に行こうかな・・・(笑)

最後に、長文お付き合いいただきありがとうございました。

気が付いたらほぼ1年半ぶりの更新だよ!(笑)